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M&A分野・スポットライト:ヘルスケア業界におけるM&Aの未来
2025年01月22日 | ブログ
M&A分野・スポットライト:ヘルスケア業界におけるM&Aの未来
ヘルスケア業界のM&Aは、2024年はほとんど活気がなかったものの、最後の数週間で急激に活発な動きを見せました。この急激な活況をもたらしている要因は何でしょうか、そしてそれは2025年も続くのでしょうか?また、ヘルスケア業界のうち最も注目を浴びる主要領域は?
直近のウェビナーでは、パネリストらが第二次トランプ政権の影響、ヘルスケア業界を形成するテクノロジーや消費者の動向など、この先1年間のヘルスケア業界におけるM&Aの見通しについて議論しました。
活気0を放つヘルスケア業界
DatasiteのDatasite Insights シニアディレクター、Abby Roberts氏によれば、昨年の1月から10月にかけてヘルスケア業界のM&Aは苦戦を強いられたとのことです。この期間にDatasiteを介して開始された案件数を見ると、世界の案件活動開始数は2023年の同期間からわずか2%増で、その伸びはすべて欧州、中東、アフリカ、またはアジア太平洋地域に集中していました。米国は横這いでした。
ところが11月5日に行われた大統領選挙の3週間後に出された最初の集計値は、これが大きく変わったことを示していました。米国のM&A活動は低調から好調へと転じ、案件数は78%増加したのです。
その理由は言うまでもなくドナルド・トランプ氏の2期目当選だとみなされるかもしれませんが、トランプ氏の勝利が唯一どころか最大の要因ですらあったのかということについて、パネリストらの意見は分かれました。
Stoutのマネージング・ディレクター兼ヘルスケア部門責任者のTony Crisman氏は、選挙が好転の主因ではないとの見方を示し、それよりもM&Aの自然なサイクルの方が重要な要因であると主張しました。
同氏はこのように述べています。「買い手と売り手の期待が大きく異なる、非常に厳しいM&A環境が1~2年ほど続きました。金利が高いなどのダイナミクスにより一部のプレーヤーたちは市場から遠ざかっていたのです。私たちは今、特に資本サイクルについて考えるとき、ベンチャーキャピタルとプライベートエクイティのどちらのためにもそれらのエグジットを一部、市場に出す必要がある時期に来ていると思います。」
Blue Cross and Blue Shield Louisianaの戦略・事業開発担当シニア・バイス・プレジデント、Darrell Langlois氏は、戦略的行動のペントアップ需要が重要な要因であると付け加えました。
「戦略に対するちょっとしたペントアップがあるのです。私たちに重くのしかかっていたダイナミクスは、医療機関と臨床提供施設の経営成績が損失状態にあるということでした。診療報酬(払戻)が臨床施設の利用状況に追いついておらず、それが資本を圧迫していたのです。しかし最近になって、私たちの市場の大手施設の一部が新規債券を発行しました。これはそうした施設が動き出そうとしていることを物語っています」とLanglois氏は述べました。
M&A Healthcare Advisorsの創業者でマネージング・ディレクターのAndre Ulloa氏も同じく業界要因を挙げましたが、ホワイトハウスの新政権は市場の牽引に一役買うだろうと述べました。規制緩和への期待、証券取引委員会(SEC)そしておそらくは連邦取引委員会(FTC)のトップの交代により、多くの買い手と売り手の不安が取り除かれました。
Centerstone Capitalのマネージング・ディレクター、Jay Liebowitz氏は、トランプ政権がこの業界に影響を与えうる新たな一面として、移民問題について言及しました。ヘルスケア事業は人件費に大きく依存しているため、移民規制の影響はこの業界にとって重大な意味を持つかもしれない、と同氏は主張しました。
McDermott Will & Emeryのパートナー、Christopher Olson氏は、新大統領の影響について「より強気だ」と自身を評し、特に2023年に導入されたFTCの合併ガイドラインや、一定額以上の取引について当局への事前通告を義務付けるハート・スコット・ロジノ法(HSR法)の規定など、M&Aを緩和しうる具体的な政策変更の余地があると述べました。
「FTCが策定した2023年の合併ガイドラインを放棄する可能性が高いと考えています。トランプ政権がこのアプローチを放棄し以前のガイドラインを復活させると予想するなら、それは取引の流れを多少なりとも促すことになるでしょう。そしてHSR法の合併前手続きの変更は、トランプ大統領の就任後1ヶ月も経たない2月10日に施行されることになっています。つまりこれらの規則は、議会による阻止、大統領による延期、または取消となる可能性がまだ残っています。
ただ、連邦政府によるM&Aへの規制は緩和されるかもしれないものの、連邦規制緩和に対抗すべく民主党議員が規制を強化する可能性があり、州レベルでは話はまったく違ってくるかもしれない、とOlson氏は指摘しました。
デジタル案件が牽引するとの期待
ウェビナーの視聴者には、今後1年間でどの領域やテーマでヘルスケアM&Aが最も活発になるかといった重要課題について意見を求めました。その結果、37%がデジタル・ヘルスケアが最も活発であろうと回答しました。 2025年に最も活発になるものとしてデジタルヘルスに続いたのは、ライフサイエンス、バリューベースド・ケア、コンシューマー・ヘルスケアの3つで、それぞれ18〜19%の票が集まりました。最後に、最も活発でないと予測されたのは行動的健康であり、投票数はわずか7%でした。
パネリストらの意見も、デジタル・ヘルスケアが重要な焦点になるということでほぼ一致しました。Ulloa氏は次のように述べています。「真のXファクターはAIと遠隔医療の統合です。AIは労働力不足を補うことができます。また効率についても考えています。今、政府や企業経済で話題になっていることの多くは、効率性を追求することです。ですからデジタルヘルスが1位になるのも納得です。」
Langlois氏はM&Aにおいてデジタル・ヘルスケアがトップであることに同意しました。同氏もまた、コンシューマー・ヘルスケアには可能性があると考えているものの、この領域の役割と可能性については業界も消費者自身もまだ明確に理解していないと主張しました。
また、バリューベースド・ケアについては可能性はあるが、それをどのように進めるかについての明確なモデルがないとのことでした。「バリューベースド・ケアでは、多くの企業や成熟企業が10億ドル以上の価値を求めて参入しました。しかし市場では、バリューベースド・ケアはまだ解決されていない課題です。バリューについてはたくさん語られているものの、まだその域に達していないのです。社内的にもベンダー経由でも取り組んでいますが、ベンダーの基本的な立場は、ありとあらゆるモデルに対してどれがうまくいくかを見ていたにすぎません。
案件を成約させるために
パネリストらは全員、ヘルスケア業界のM&Aは今後1年間で増加し安定的に行われるだろうという点で意見が一致したものの、案件の成約率については予測が困難であろうとのことでした。Datasiteが提供するデータによれば、2024年の大半の期間における成約率は世界的にもさらに低下しており、特に米国では最初の9ヶ月間で7%減少しています。
Liebowitz氏によれば、成約率を改善するには当初から優良な資産を見極めることが重要であり、魅力的なものとしてオーガニックな成長機会を挙げています。また、案件プロセスに注目したパネリストもいます。
「取引の期待とタイミングについて、双方の担当者を教育する初期段階のプロセスを確立することが重要でしょう」とOlson氏は語り、さらにこう付け加えました。「取引が失敗する最もありふれた理由のひとつは、長々と時間をかけすぎてしまうことです。人々は取引に疲れ、市況は変化するため、双方とも取引に専念する適切なリソースを割り当てる必要があります。」
Crisman氏は、ディールメーカーはプロセスのかなり初期段階で控えめな入札は除外することがあり、そのような一見低価格の入札が、さらにデューデリジェンスを行った結果、より高額な入札開始金額と変わらない結果になることがある、と付け加えました。「たとえ入札額が多少低くても、真に賢明な投資資金が含まれるようプロセスを変える必要があります」と同氏は主張しています。「彼らはその挑戦を通じてプレーし続けるでしょう、なぜならデューデリジェンスで明らかになる課題の一部をすでに認識していた可能性があるからです。」
Datasiteのデータと有識者チームの見解によれば、2025年はヘルスケアのM&A活動が回復し、適切な準備、データ、プロセスが整えば案件の成約率も向上する可能性があります。しかし同じくらい重要なことは、進化し続ける市場におけるディールメーカーの機敏な対応力でしょう。これについてLiebowitz氏は次のように主張しています。「M&A案件は少なくとも6~9ヶ月のプロセスとなります。世の中は変化しますから、早めに考え、できるだけ早く市場の感覚をつかむようにしてください。」